りんごの音符(17)
ヴァイオリン/松浦 奈々さん
ヴァイオリンを始めたのは7歳です。最初は「かっこいい」という単純な憧れだったんですが、弾けば弾くほど、音色と自分の感情がそのままつながっていく感覚に引かれていきました。うれしい音、かわいい音、切ない音…。いろんな音色を自分で探していけるのがたまらなく楽しかったんです。
細かい練習は苦手で、得意なところだけやって先生に怒られたりしたこともあったっけな。ただ、あのころ感じた音色で感情を形にできる楽しさは、今でも私の原点です。
アンサンブルが大好きなんです。学生のころは、弦楽四重奏に夢中でした。誰かと一緒に音楽を作る喜びがありましたから、オーケストラの道に導かれていったのも自然な流れなのかもしれません。
ヴァイオリンはオーケストラの中で主旋律を担う中心的な存在。でも私一人ではやっぱり成り立たなくて、後ろで支えてくれるチェロやコントラバス、そして仲間のセカンドヴァイオリンやビオラがいて初めて音楽が息づくということを舞台に立つたびに感じています。
“相棒”は、17世紀製のフランチェスコ・ルジェッリ。古い楽器は音の引き出しが多く、自分がうまくならなければ音を出せません。共に過ごして8年になりますが、楽器に育ててもらっているような感覚すらあります。
音楽は、生きる上での必需品です。家族を失った時は心を救ってくれたし、手の手術で弾けなくなるかもしれない不安に向き合った時には、どれだけヴァイオリンが大切な存在であるか分かりました。
プライベートでは、14歳になる黒猫の「小福」が癒やしの存在です。ツアーや海外公演も多く、最近は体力維持のためにジムに通っています。体を動かすことで頭がクリアになり、集中力が高まる効果も感じています。
青い海と森の音楽祭では、人と音でつながる幸せを改めて感じた時間でした。アオモリ・フェスティバル・オーケストラ(AFO)では、初めて顔を合わせるメンバーもいましたが、ほとんどが交流のある信頼している仲間たちで、音を出した瞬間から安心感がありました。
また、指揮者の沖澤のどかさんとコンサートマスターの矢部達哉さんが、互いに深い信頼を寄せながら(AFOの)音を作りあげていく様子には、胸が熱くなるものがありました。そして何より、お客さまの集中力と熱意が素晴らしかった。この土地にもっと音楽が根付けばいいな、と心から思いました。
来年の音楽祭が今から楽しみです。青森で音を奏でることは、普段感じているしがらみから解き放たれて、心の底から音楽を楽しめるご褒美のような時間なんです。音楽を通じて出会える人や時間に感謝しながら、これからも謙虚に丁寧に音と向き合っていけたらと思っています。今度は観光もできたらいいな~。
(まとめ・加藤桃子)
松浦奈々さん©FUKAYA/auraY2
コンサートマスターを務める日本センチュリー交響楽団の演奏会でソロを披露する松浦さん©s.yamamoto
まつうら・なな
桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学を首席で卒業。第15回宝塚ベガ音楽コンクール弦楽器部門第1位。ヴァイオリンを故・工藤千博、原田幸一郎の両氏に、室内楽を徳永二男、毛利伯郎の両氏に師事。日本センチュリー交響楽団アシスタント・コンサートミストレスを経て、2015年4月より同楽団コンサートマスターに就任。「ベートーヴェン全曲演奏会」が評価され、大阪市より2019年度咲くやこの花賞を受賞。トリトン晴れた海のオーケストラ、ARKフィルハーモニーメンバー
音楽はおもしろい/年の瀬に響き渡る「第九」
年の瀬になると、街の空気はどこかせわしくなってくるものです。そんな時に耳を澄ませたいのが、ベートーヴェンの交響曲第九番、いわゆる「第九」です。静かな始まりから重厚な響きが広がる第1楽章、力強いリズムで心を揺さぶる第2楽章、穏やかで美しい旋律が流れる第3楽章、そして合唱が加わり大きな喜びを歌い上げる第4楽章へと続きます。その流れは、まるで人生の歩みを映すように、闇から光へ、困難から希望へと進んでいきます。
日本では戦後から年末に演奏されることが多くなり、ラジオやコンサートを通じて「年末の風物詩」として親しまれてきました。第九が伝える「人はみな兄弟」というメッセージは、時代を超えて人々の心に響き続けています。
難しい知識がなくても、音楽の力強さや温かさは自然と胸に届きます。さらに近年では、全国各地で市民合唱団や学生が参加する演奏会も盛んに行われています。その他大規模な舞台から地域の小さなホールまで、さまざまな場所で第九が響き渡り、人々の絆を深めています。青森県内でも、今年42回目を数える青森市での演奏会が14日に行われる予定で、県内各地で公演が催されています。
音楽を通じて世代や立場を超えて心がつながる瞬間は、まさに第九の精神そのものです。移ろう季節の節目に、第九を聴けば心が整い、来る年を穏やかに迎えられるかもしれません。
(県吹奏楽連盟監修)


