りんごの音符(16)
ホルン/鈴木 優さん

私が音楽を始めたきっかけはピアノでした。最初は遊びでやっていたようなもので…あまり得意にもなれませんでした。音楽にのめり込むようになったのは中学校でホルンを始めてからです。実は小学校6年間は柔道に打ち込んでいました。父が先生だったのでやらされていて(笑)。相当スパルタだったので精神力は鍛えられました。並大抵のことにはめげずに取り組めるようになりました。
高校でも吹奏楽を続け、顧問の先生から芸大受験を勧められたことでプロを意識するようになりました。レッスンを受けていた高橋臣宜先生(東京フィル首席奏者)がプロオーケストラを生で聴かせてくれて、ホルンの音がかっこよくて衝撃を受けたんです。高校1年か2年のときでした。
芸大では、仕事として演奏してお金をもらうという経験をして責任感が芽生えたのを覚えています。オーケストラに乗せてもらう機会ももらい、プロへの憧れはより強くなりました。現在所属している東京都交響楽団は伝統のある楽団で、音楽の方向性がしっかり定まっているのが特徴です。冷静さと情熱がバランスよく、若手のフレッシュさも感じられる。オーケストラごとにカラーがあるのも面白いですね。
ホルンという楽器はとても歴史が長く、たくさんの編成に使われます。どの曲を聴いても基本的にホルンがいるという感じです。多彩な音を変幻自在に出せる点が魅力ではありますが、奏者としては大変な部分でもあります。音域がかなり広いので高音と低音の奏者に分かれて演奏します。バイオリンからコントラバスまでをホルンでカバーできるようなイメージです。
夏に出演した「青い海と森の音楽祭」では、青森に初めて長く滞在しました。自然豊かで空気も澄んでいて、お客さんが温かかったのが印象的。とても待ち望んでくれていたのが伝わりました。その空気感で演奏できたのは心地よかったです。オケは音楽祭限りで集まったとは思えないほど洗練されていて躍動的で、3日間のリハーサルであっという間にサウンドが作られていくのに感動しました。来年の音楽祭も楽しみです。
いまの目標は自分が理想としているサウンドを作ること。オケの一員でもあるのでオケのサウンドに彩りを与えられる、1音伸ばしただけで深みが出るような奏者になりたいです。普段は目立つパートではないけど内面のカラーを操れるような技術を身につけ、音楽に対する誠実さと愛を失わないように向き合っていきたいです。
(まとめ・秋村有香)

鈴木優さん

ホルンカルテットの演奏会に出演した鈴木さん=10月30日、東京・新大久保のスペースDo

すずき・ゆう

群馬県出身、東京芸術大学卒業。2014年ヤマハ新人演奏会に出演。Menagerie Brass Quintetとして第10回チェジュ国際金管楽器コンクール金管五重奏部門第1位を受賞。ホルンを高橋臣宜、守山光三、日高剛、西條貴人、伴野涼介、五十畑勉の各氏に師事。東京交響楽団を経て19年から東京都交響楽団団員

楽器を知ろう ホルン

名称に“ホルン”という単語がつく楽器はたくさんありますが、一般的に“ホルン”というと金管楽器の“フレンチ・ホルン”を指します。(以下、ホルン)
ホルンは、渦を巻くように複雑に巻かれた管と、楽器本体に対して比較的大きなベルが特徴的な金管楽器です。しかも、ベルの向きは多くの金管楽器が前や上を向いているのに対し、ホルンは右後方を向いていて、その点でも特徴的な楽器です。
ホルンの起源は、狩猟で獲った獣の角を加工して楽器にしたという説が有力です。その後、狩猟時の信号用の楽器を経て、音楽で使用する楽器に発達しました。最初は全ての音程を自在に出せる機構がなく、自然倍音とベルに右手を入れて音程を変えることで演奏する“ナチュラル・ホルン”が用いられていましたが、その後改良が重ねられて、現在では“フレンチ・ホルン”が標準的に用いられています。
低音から高音まで出せる音域が広いことと、優しくまろやかな音色から強く激しい音色までカバーできることから、クラシック音楽だけでなく、映画音楽やゲーム音楽にもよく登場します。作曲家のリヒャルト・シュトラウスは「ホルンほど人間の感情を幅広く表現できる楽器はない」と述べ、その魅力を称えました。
一方で、ホルンは「世界で最も演奏が難しい金管楽器」としてギネスブックに記録されています。音の高さの調整が難しく、息の入れ方や口の形が少し変わるだけで、出そうとした音とは違う音が出てしまうことがあります。そのため、演奏者には集中力と技術が求められます。
外見も音色も個性的なホルン。ぜひその音色を聴いてみてくださいね。
(県吹奏楽連盟監修)