りんごの音符(15)
ファゴット/鈴木 一成さん

7月に出演した「青い海と森の音楽祭」。地方で開かれる第1回目の音楽祭に参加したのは初めてでしたが、感動的な場面が多かったです。芸術総監督の沖澤のどかさん(青森市出身)と音楽主幹の隠岐彩夏さん(五所川原市出身)、2人の「青森の人に音楽を伝えたい」という思いにオーケストラのメンバーみんなが一気に集中していました。表現が難しいのですが、ものすごい、エネルギーが集まった響き方をしていました。来年もぜひ参加したいです。
僕が吹いているファゴットという楽器はどんな印象を持つでしょうか。優しい、豊かな音という言葉をよく聞きますが音域によってキャラクターが変化するんです。低い音は色で例えると赤黒い、少し怖い音が、高い音だと信じられないくらい艶やかな音が出ます。何でも表現できるのがファゴットの魅力だと思います。
音楽は小学校低学年くらいにエレクトーンを習ったことがきっかけで始めました。年子の姉が先に習っていたのですが、ある日エレクトーンの椅子を使おうとしたら「弾かないのに椅子を使うな」と言われてしまって(笑)。じゃあ習う、という流れで始めたんですが、楽譜が読めるようになったのは良かったですね。
小学校でリコーダーがすごく好きになって家でCMの曲をまねして吹いたりしていました。中学校では吹奏楽に入りユーフォニアム担当に。吹奏楽でよくある「男子だから大きい楽器」という理由です。ファゴットは高校で始めるのですが、出合いは中学3年生でアマチュアオーケストラの練習を見学したとき。初めてファゴットを見て「何だこれ」と興味が湧きました。(同じ発音方法の)オーボエにも興味がありましたが、ユーフォニアムと同じヘ音記号の楽譜が読めたこともあり、ファゴットを始めました。
高校生で音楽の道に進もうと決めて、親に相談したら「コンテストで金賞を取ったらいいよ」と言われたんです。2年生で挑戦した「中部日本個人・重奏コンテスト」の個人部門で本大会に進み、金賞を取ることができました。そこから大学を目指して3年生から本格的に音楽を勉強して、レッスンを受けていた青谷良明先生がいた愛知県立芸術大学の音楽学部へ入学しました。当時はリペアマン(楽器修理・調整の専門家)への憧れもありましたが、かなり繊細な作業や技術が必要だと分かり「できないな」と。演奏家を目指したのは大学2年の時でした。
自分の大きな転機となったのは2015年の東京音楽コンクール木管部門で1位になったことです。他のコンクールで入選はありましたが1位は初めて。30歳が目前でしたので「自分がやってきたことは間違っていなかったんだ」と、モヤモヤしていた気持ちが晴れました。すごくうれしかったです。
どんなことも諦めないで自分を信じることが大切ですね。信じたことを貫いたときに結果は出ます。演奏スタイルは変わっていっても良いと思うので、軸はぶれずにいろんな可能性を探したい。一生答えは見つからないかもしれないけど、まずは自分で納得できる演奏を目指したいです。
(まとめ・秋村有香)

鈴木一成さん(daubekphoto.com)

第13回東京音楽コンクールで演奏する鈴木さん(写真提供:東京文化会館)

すずき・かずなり

1986年生まれ、三重県出身。愛知県立芸術大学卒業、桐朋学園大学研究生修了。ファゴットを青谷良明、岡本正之の各氏に師事。第13回東京音楽コンクール、第29回宝塚ベガ音楽コンクール木管部門にていずれも第1位を受賞。新日本フィル契約団員、オーケストラ・ジャパン首席奏者を経て、2013年から神奈川フィル首席ファゴット奏者

楽器を知ろう ファゴット

ファゴットは、オーボエと同じダブルリード(2枚の葦)を発音体とした、低音を担当する木管楽器です。イタリア語圏やドイツ語圏ではファゴットと呼ばれますが、英語圏ではバスーンと呼ばれ、日本ではどちらの名称でも呼ばれています。「ファゴット」という名称は、「薪の束」を意味するイタリア語に由来すると言われています。
折り曲げられている木製の管の全長は、約2.5メートルにも及びます。また、ファゴットより音域の低いコントラファゴットの管の全長は6メートル近くもあります。
ファゴットの特徴は、その独特の音色にあるのではないでしょうか。柔らかく豊かで深みのある低音には、独特の温かみがあります。
また、約3オクターブ半に及ぶ広い音域があり、特に中音域は人間の声に近いと言われ、旋律を美しく歌いあげることができます。
オーケストラでは、低音を支える楽器のひとつで、目立たない場面もありますが、温かく、ときにユーモラスで表情豊かな音色から、コミカルな場面で使われることもあり「楽器の道化師」とも呼ばれます。その他にも、悲しみや情感、哀愁を表す場面でも活躍できる、表現力の幅が非常に広い楽器です。
ソロを担当することもあり、ラヴェルの「ボレロ」や、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の冒頭は、ファゴットが活躍する代表的な曲と言えるのではないでしょうか。
オーケストラを鑑賞する機会があったら、赤茶色の独特の見た目と、温かくユーモラスな音色のファゴットに注目してみてくださいね。
(県吹奏楽連盟監修)