りんごの音符(13)
ティンパニ/久一 忠之さん

打楽器に最初に触れたのは小学校5年生の時です。学校の鼓笛隊のドラムセットを見て「カッコいい」と思ったのがきっかけで、僕は小太鼓を担当しました。音楽しか自信の持てるものがありませんでしたので、好きなことを仕事にしたいという目標もあり、ずっと続けることができました。
打楽器は最も単純な発音楽器なので、気持ちを素直に投影できるところが魅力です。言葉で表現するのが得意ではないので音を通して伝えたい。ただ、理性と感情のバランスを崩すと途端にいろいろなことが破綻し始める怖さもあります。機械的な演奏になったり、あるいは冷静さを欠いた自己満足な演奏になったり。オーケストラの頼りになるよう、迷うことや逃げることが許されないプレッシャーは常にありますが、とてもやりがいのある仕事です。
音響心理学の研究においてティンパニの音は人間の心理に影響を及ぼしやすいという結果もあるそうです。そのような楽器の奏者になれたのは誇りに思うし、例えば和太鼓の音や花火、木の香りなどといった多くの人の心に共鳴できるような演奏ができたら幸せです。
普段の練習は楽器の練習ももちろんですが、楽譜を見ながら曲の研究をしたり、音を聴きながらイメージを膨らませている時間が多いです。休みの日はあえてクラシックは聴かないようにしています。演奏が気になってしまって頭が休まらない(笑)。
他のジャンルだとサザンオールスターズが好きで、ファン層が広く多くの人に共感してもらえる、時を経ても色あせない曲や想いがクラシックと似ているな、と。僕も年齢を重ねていろいろな経験をして、同じ曲を演奏しても感じ方や理解力が変化している。そこが芸術の魅力の一つであると思います。
今回出演させていただいた「青い海と森の音楽祭」は、コンサートマスターの矢部達哉さん、以前金沢でご一緒した沖澤のどかさん(芸術総監督)からお声掛けいただきました。とても光栄です。これからも日本の超一流のアーティストが集まり、必ず充実した素晴らしい音楽祭が続いていくことでしょう!
人間の追求する「苦悩の先にある幸福への憧れ」。苦しい時も、辞めたいと思った時も何度もありました。でも「好き」と思って始めた素直な心を忘れず、勇気を持って諦めずに努力すれば、必ずいつか花が咲く。続けてきてよかった。
音楽と共に、そんな様々な想いを青森の皆様にお伝えできていたなら演奏家として本望です。

東京都交響楽団の演奏会でティンパニを演奏する久一さん=2020年12月、東京文化会館

NHKのど自慢にチャイム奏者として出演した久一さん=2023年7月

ひさいち・ただゆき

1978年、千葉県香取市出身。武蔵野音楽大学卒業、東京音楽大学研究科修了。東邦音楽大学講師。ティンパニ・打楽器を菅原淳、宮崎泰二郎、安藤芳広、久保昌一の各氏に、ジャズビブラフォンを浜田均氏に師事した。広島交響楽団を経て現在東京都交響楽団首席ティンパニ・打楽器奏者

楽器を知ろう ティンパニ

ティンパニは、オーケストラや吹奏楽で使われる大きな打楽器です。丸い金属の胴に、ヘッドと呼ばれるうすい皮が張ってあり、マレット(ばち)で叩いて音を出します。
ティンパニの大きな特徴は、皮を叩いて音を出す楽器でありながら、音の高さを変えられることです。
足元にあるペダルを動かすと、皮を張る力が変わって音が高くなったり低くなったりします。この仕組みによって、音階に合わせた音を出すことができ、時にはメロディを演奏することもあります。
演奏に使うマレットにはさまざまな種類があり、先が柔らかいものは温かみのある音を、硬いものははっきりした音を出すことができます。叩く場所や力の強さでも音の表情が変わります。
ティンパニは、リズムを刻むだけでなく、曲の中で大切な場面を強く盛り上げたり、静かな場面で緊張感を生み出したりと、数多くの表現が可能な打楽器です。もともとはヨーロッパの軍楽隊で使われていた楽器ですが、今ではクラシック音楽や映画音楽など、さまざまなジャンルで活躍しています。
ティンパニは、音楽全体をしっかりとささえる大切な楽器です。オーケストラでは多くの場合、舞台後方に配置されますが、見た目の特徴から目立つ楽器の一つでもあります。ぜひその音と姿に注目してみてください。(青森県吹奏楽連盟監修)