りんごの音符(7)
チェロ/佐藤 晴真さん
チェロの音色は人の声に近いとよく言われます。私の場合、ちょうどチェロの一番低い音が、私の一番低い声ぐらいのバッチリの相性です。だから私自身としてはその音域はとても親近感がわく楽器だなと思います。演奏者と楽器との距離もやっぱりどの楽器よりも近いっていうことは、心情を音楽で表現しやすい楽器なんじゃないかなと個人的には思っています。
4歳半のとき、中木健二先生(愛知県出身のチェリスト)の演奏を聴き、チェロをやりたいと両親に懇願しました。30分にも満たない演奏だったのに、すっかり心を奪われてしまったのです。まずはバイオリンから始めて、6歳で念願のチェロに転向しました。
チェロを辞めたいと思ったことはありません。チェロに触れることが自然と生活に組み込まれていって、逆に練習しないと居心地が悪い感じになっていきました。それが今のチェリストという職業につながっていったのだと思います。ただ仕事とは思っていません。自分にしかないものに気づかないといけない。新しいものを表現していきたいという思いで舞台に立っています。
自分の言葉を増やすことも奏者として大切です。穂村弘さんや俵万智さん、中原中也、宮沢賢治が好きでよく読みます。語彙を増やすことで音楽のイマジネーションが広がっていきますし、共演者とコミュニケーションしやすくなります。
クロード・ドビュッシーというフランスの作曲家がいます。人よりも自然が好きだったのではないかと思うほど、光や風、海など自然をモチーフにした曲が多く、自然の神秘のようなものをじかに感じさせます。音楽祭では、さまざまなドビュッシーの楽曲を演奏する予定です。「青い海と森の音楽祭」という名前が示す通り、自然豊かな青森でドビュッシーを奏でることは特別な意味を持つと思っています。本能的に聴ける、さらに言えば第五感、第六感までフルに使って楽しんでいただきたいです。
現在はベルリン芸術大学に在籍しながら、国内外の演奏活動で飛び回る日々を送っています。合間にふと、自分はなぜ演奏するのか―考えることがあります。一つは、演奏会で自分なりの解釈を表現したいから。二つ目は、初心者の方にクラシック音楽の良さを紹介したいからです。
押しつけるつもりはありませんが、生で聴く音楽はさまざまなベクトルの感動をもたらすと信じています。それは、先に述べたように、私自身が体験したことでもあります。家で鳴っていた音楽に興味を示さなかった私がある日、中木先生の演奏を目の当たりにし、突き動かされるものを感じた。それは感動であったに違いないのです。
「地産地消の音楽祭にしたい」という芸術総監督の沖澤のどかさんの言葉に深く共感しています。沖澤さんの地元を大切にしたいという思いとともに、青森から世界に羽ばたく次世代の気持ちを育てていく。今まで青森と縁がありませんでしたが、これを機会に貢献できたらと思っています。
もちろん、演奏以外でも青森を堪能したいです。ラーメンが好きなのでお店を巡りたい。みなさん、お薦めを教えてください!



ⒸSeiichi Saito

日本人として初めて優勝したミュンヘン国際音楽コンクールのファイナルで演奏する佐藤さん=2019年 ⒸDaniel Delang
さとう・はるま
1998年、愛知県名古屋市出身。2019年、ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門において日本人として初めて優勝。18年にはルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第1位および特別賞を受賞。第83回日本音楽コンクールチェロ部門第1位および徳永賞・黒柳賞など受賞多数。これまで国内外の主要オーケストラと共演しており、リサイタル、室内楽でも好評を博す。23年4月には、名門ドイツ・グラモフォンより3枚目のアルバムとなる『歌の翼に~メンデルスゾーン作品集』をリリース
楽器を知ろう/チェロ
チェロはクラシック音楽で使用される弦楽器です。バイオリンからコントラバスまでの弦楽器の中では音域がコントラバスに次いで2番目に低い楽器で、オーケストラや弦楽四重奏、弦楽五重奏などでは主に低音部を受け持っています。協奏曲やチェロソナタなど、チェロをソロ楽器として取り上げた曲が数多く作曲されています。また、ピアノやオーケストラの伴奏がない「無伴奏」のソロ曲も作曲され、中でもヨハン・ゼバスティアン・バッハの「無伴奏チェロ組曲」は大変有名な曲ではないでしょうか。
発音原理や基本的な構造はバイオリンやコントラバスとほぼ同じです。しかし、中低音を受け持つため楽器本体がバイオリンやビオラよりも大きいので、顎ではさんで演奏することはせず、演奏者の前方に楽器を配置させて演奏します。
現在のチェロは、楽器下部に「エンドピン」という細い金属製の脚があり、これを床に接触させて支えとしています。エンドピンがあるのはコントラバスも同じですが、コントラバスが立って演奏するのに対して、チェロは座って演奏します。
時には優しい音を、時には力強い音を出す、とても表現の幅が広い楽器です。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの4つの弦楽器を比べながら演奏を聴くのも面白いかもしれません。
(青森県吹奏楽連盟監修)