りんごの音符(4)
ハープ/吉野直子さん
ハープとの出会いはとても自然でした。母がハーピストだったので、生まれる前からハープの音を聴いていたはずですし、物心がついた頃から家にハープがありました。
ハープを始めたきっかけは6歳の時。父の仕事の関係でアメリカのロサンゼルスに引っ越して、素晴らしいハーピストのスーザン・マクドナルド先生と出会ったことでした。弾いてみると最初から自分にしっくりくる感じがして「なにがなんでも音楽家になる!」という強い決意ではなく「自分は多分この先、ずっとハープと一緒に歩んでいくんだろうなぁ…」という感覚があったように思います。
その延長線上でハープを弾き続けて、17歳の高校3年生の時にイスラエル国際ハープコンクールで1位をいただき、それがきっかけでコンサートをたくさんするようになりました。その後は音楽大学ではなく普通大学に通い、好きだった西洋美術史を専攻しました。大学生活を送りながらコンサートもかなりたくさんやりましたね。
ハープは、音を出す弦を自分の指ではじいて演奏する撥弦楽器です。自分と楽器のあいだに何も介さず、表現したいことをストレートに楽器に伝えることができるのが魅力だと思います。弦は一度はじいたら、それ以上音を伸ばすことができないし、押さえない限り響きを消すこともできません。そういう制約がある中でも、いかに長く伸びているように音を響かせるか。響きが残ると和音が混ざっていってしまうので、いかに不要な音を消すか…考えながら弾くことは難しいですが、ハープの奥深さでもあると思います。
来年の「青い海と森の音楽祭」では、ハープの表現の幅広さを直に味わっていただければうれしいです。音楽祭への参加が決まり、今年5月に十和田市と青森市にプライベートで行きました。岩手での演奏会が終わり、東京から自分の運転で来ていたので、そのまま足を延ばすことにしました。緑が豊かで、十和田から青森への道中、遠くに見える山の雄大な景色が印象的でした。
十和田市現代美術館では、五感を刺激される展示にワクワクし、県立美術館ではシャガールの「アレコ」の背景画のスケールと色彩感に圧倒されました。十和田で偶然見つけた農家レストランでは、地元で採れた新鮮な野菜の美味しさに感動。音楽祭は夏の時期ですから、ねぶたの熱気を体感したり、自然を感じられる場所を訪れたりするのもいいですね。
指揮者の沖澤のどかさん(青森市出身)とは、1月の京都市交響楽団の演奏会で初めてご一緒して、音楽的にとても楽しく、お話する中でも素敵な方だと思いました。そんな沖澤さんの地元青森で、手作り感ある音楽祭。誘っていただいたときは本当にうれしく思いました。お客さまと距離の近いコンサートを目指しているようでしたので、私のやりたいこととも重なったんです。
青森の子どもたちには、目の前で生の音楽に触れて、いろんな感覚をオープンにして聴いてほしいですね。ホールは、非日常の空間。緊張するかもしれないけれど、その経験がどこかに残って、次の新しい出会いにつながる一つのきっかけになればうれしいです。
水戸美術館提供
東京文化会館でのコンサートで演奏する吉野さん=2018年11月(©青柳聡、東京文化会館提供)
よしの・なおこ
1967年ロンドン生まれ。85年に第9回イスラエル国際ハープ・コンクールに17歳で優勝。ベルリン・フィル、イスラエル・フィル、アーノンクール、メータ、小澤征爾、クレーメル、シュルツ、バボラークなど、国内外の主要オーケストラ、指揮者、ソリストと数多く共演。世界各地でソロリサイタル開催。武満徹、細川俊夫など新作の初演も多数。2016年自主レーベルによるCD制作を新たにスタート。国際基督教大学卒業。東京藝術大学客員教授
楽器を知ろう/ハープ
弦楽器は、ギターや三味線などの弦をはじく「撥弦楽器」、ピアノなどの弦を打つ「打弦楽器」、バイオリンなどの弦を擦る「擦弦楽器」の三つに分類でき、今回紹介するハープは「撥弦楽器」の一つです。ハープにもさまざまな種類があります。代表的なものに「グランドハープ」、「アイリッシュハープ」などがあり、クラシックのオーケストラで使用されるのは通常は「グランドハープ」です。ハープでは小指を使わないので、両手の8本の指で弦をはじき音を出します。弦をはじくときのスピードを変えたり、弦をはじくときの力を変えることによって、音の強弱や音色の変化を表現します。ときには爪を使ってはじき、立ち上がりのよい力強い音を出すこともあります。
歴史的には、古代メソポタミアにおいて紀元前3000年ごろの王朝ウルの墓にハープの原形の絵が記されているのではないかとの説があります。シュメール王朝時代の遺跡からは、ほぼハープの原型と思われる楽器が発見されています。現在の形になったのは19世紀初めのことです。
多くの方は優雅で優しい音をイメージすることと思いますが、張りの強い弦をはじくため、演奏する際は比較的強い指の力が必要です。また、弦が鳴るだけでなく楽器本体が共鳴するため、力強い音やドラマチックな表現が可能で、旋律と伴奏を同時に演奏することもでき、1台で「小さなオーケストラ」と呼ばれることもあります。
(青森県吹奏楽連盟監修)